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書楼弔堂 探書拾壱 無常 [京極夏彦]

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小説すばる2016年2月号に掲載 第11話

祖父が床に臥しだして塔子が看病するようになり3ヶ月、
母から祖父が存命の内にお家存続が孫の努め、婿を娶れと言われ
反発して塔子は家を飛び出す。

そんな道すがら体調の悪そうに腰掛けている顔半分を髭で覆った老紳士と会う
彼は50才で道に迷って一息ついているのだという。
武士の生まれで学者を志したが軍人となり、その後農家となったが
また復軍して…と流転した彼の人生を語る
そして自らを泣き虫の“なきと”だと自嘲するように名乗った。

“なきと”氏の体調を案じひとまず弔堂で休息をとるようにと案内した所
彼と弔堂主人の龍典とは実は30年来の知人だったと塔子は知る。
偶然再会した弔堂主人は“なきと”氏の事を敬々しく中将閣下と呼んだ。



今回の書楼弔堂のお客は、乃木希典将軍。
複雑な生涯、髭、幼名の無人(なきと)由来の泣き虫の“なきと”のアダ名で
序盤でも察しがつきました。
あと情景描写でも「坂の上」、「雲」とさらりと司馬遼太郎の「坂の上の雲」を想起する
ヒントを入れててニヤリ( ̄ー ̄)

弔堂主人が乃木に手渡したのは三宅観瀾の「中興鑑言」。
後年、乃木が養育係として親王達に熟読を進めた一冊でした。


戦争下手、愚将とも評される乃木の行動の根幹を
それまでの全滅覚悟特攻を美徳とする武士の常識と、
外交手段としても重視されるようになりだした近代戦争化との間を迷い揺れて
情けや慈しみを重きをおく優しい性分故に兵を
無駄に殺せなかったからだと解釈したのが面白い試みでした。
水師営の会見での敬意ある対応や戦死者の遺族訪問したり
戦傷病者への対応とか逸話が多い乃木を不足なく人物像を表現しつつ
物語としても29ページの短編でまとめられるのか、と感嘆ものの構成です。

あと今回はもう一人の主人公、松岡國男は登場しませんでした
書楼弔堂二季もそろそろ結末だと思っていたのですが
こちらはどう締めるのだろう。続きが楽しみです。



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