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書楼弔堂 探書拾弐 常世 [京極夏彦]

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小説すばる2016年6月号に掲載 第12話

祖父が床に伏すようになって迎えたこれまでとは違った静かな正月
そんな時、塔子の元に友人の美音子から結婚したとの手紙が届く。
祝いの品を持って美音子の実家の菅沼医院を訪ね、
その帰り道に偶然、梅の木の下で弔堂店主としほるに会う。
氷川のご老体こと勝海舟が亡くなったのだという。

それから桜が咲き始めた頃に祖父は亡くなり
以来ずっと本を遠ざけてしまう塔子。
法事を終えて一年ぶりに梅の花を見た事で弔堂を思い出し
無性に本が読みたくなり書楼弔堂へ向かいだすと
店先には帝大法学部の松岡國男がいた。
彼も最近近しい人を亡くしたのだと語る…。


 。 塔子の祖父、松岡(柳田)の想い人のイネ子、勝海舟…
今回はいつもとちょっと違う構成で、故人と残された側の向き合い方と
京極夏彦ならではの幽霊論の話でした。

「幽霊を怖がることこそ迷信でございます(略)
記憶を辿るだけでは、それはただの思い出に過ぎませぬ。
今、そこにいたなら、その人はどんなことを思うのか、
何を言うのか、それを思い描けるのはその人のことを
能く識った人だけでございませぬか
(略)
肉親が、友人が、想い人が怖いわけがないのです。
怖いなら、そう感じる方に疚しさがあるからにほかなりますまい。
疚しき心こそ、地獄。死者を迷わせるのも、
死者を地獄に落とすのも、それは生きているものなのでございます」

死者を思い、思い出す事がなによりの供養であり
生きている者の心にこそあの世(常世)があるという語りがとても救われます。
水木しげるさんが亡くなられてからの作品だと思うと
京極さんは作品と個人は別物だと言われるだろうけど考えちゃいますね、色々…。


最後に明かされた塔子のフルネームは 天馬塔子。
塔子が店主に選んでもらった本は
『一日一時間三日三時間 自轉車乘用速成術』
いわゆる自転車の乗り方のハウツー本。
この本は近代デジタルライブラリーでネット上に公開されてるけど
曲乗りの挿絵がサーカスばりにすごい事になってて吹きましたw
当時の自転車とは本当に未知の存在だったんですね(´∀`;
現代とは違い、明治の世では自転車は女性が乗るのも観るのも駄目だとされてた
常識からの脱却のこの本こそ塔子にふさわしい一冊なのですねぇ。
塔子のその後は記されてませんが、きっと映画タイタニックのローズのように
それからの時代の変化の様々なことにチャレンジしていったんではないでしょうか。


公式サイト大極宮では、“『書楼弔堂 弐』最終回です。”と告知されてますが
また単行本での書き下ろしは無いのかなぁ…
前作の『書楼弔堂 破暁』では最後の『未完』で中禅寺家との繋がりが語られる
超ビックサプライズがあって期待してたのですが
今作ではそういったものが無く
松岡=柳田國男とは明かされたけどその後の柳田の人生については
最後かなり急ぎ足だったので
もしも書き下ろしがないなら書楼弔堂の第二シーズン全体としては
やや物足りない終わり方でした。単行本の装丁に期待。



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